The Energy of Life~運命を変え、創造する~ 
episode1|緒方麻美

 

違和感。それは自分と家族の間にある価値観の違いだった

朝、いつものように小学校へ登校する息子の悠人と玄関へ向かう。「今日はどこまで見送ってくれる?」
「この後することがあるけん玄関まで」悠人の顔が曇る。敷地から出るまでに距離があるのだ。

「外までママに見送ってもらったら安心やったね」うなずく悠人。
「でも今日はね、悠人と一緒にお布団に入ることがママのゴールなんよ。昨日はお仕事しててできなかったもんね。だから、そのために朝のうちに洗濯とか洗い物をしていくんよ」

私の言葉を聴くと、なんだそうだったのかと胸をなでおろし、夜の幸せなひと時を思い描く悠人。にこにこしながら玄関を出ていく姿を見ると、気持ちが通い合った感覚があり、自身も胸がぐーっとあたたかくなった。

今でこそそんな関わりを積み重ね、信頼関係が構築されているが、生まれたころの彼との間には何か物足りない感じがあった。5年間の不妊治療の末にできた子で、彼の誕生に大きな喜びや幸せがあったことは間違いなかったのにだ。
その物足りなさの一つが悠人の笑顔だった。おじいちゃんに抱かれた悠人はよく笑った。安心し、落ちついて抱っこされている。しかし、私に抱かれている時、おじいちゃんのときのようには笑わないことが不思議だった。その後も違和感を抱えたままに子育てを続けて、2歳を迎えようとする頃、悠人は泣かず騒がずの「親にとってお利口さんな扱いやすい子」として育っていた。

当時の私は、迷いながらも佐賀県にある母親コミュニティーにて現在の「心をつなぐ人になるCüくう‐入門‐」の前身である「おやべん」の講座を受講することにした。そこでどんなことをするにも気持ちがあること、そして、どんな気持ちがあってもよいことを知り、対立のないコミュニケーションを学び始める。学びが深まっていくにつれて、自分の気持ちに素直になり、隠されていたものが出てくる感覚を覚えた。

そして自分を感じれば感じるほどに出てきたのは「家が帰ってきてホッとする場所でない」ということだった。

自分で自分にびっくりした。当時、一緒に暮らしていた夫のご両親は悠人のことをお風呂に入れたり、ご飯を一緒に作ったりして積極的に関わっていた。わたしたちともけんかや言い争いもなく、「何一つ問題がない家族環境」だと思っていた。しかし、日々の生活の中で、どうしてもどこかしっくりこない違和感を感じながら生活していたのだ。

 ひとりひとり違う、から始まる。

今でこそそんな関わりを積み重ね、信頼関係が構築されているが、生まれたころの彼との間には何か物足りない感じがあった。5年間の不妊治療の末にできた子で、彼の誕生に大きな喜びや幸せがあったことは間違いなかったのにだ。
その物足りなさの一つが悠人の笑顔だった。おじいちゃんに抱かれた悠人はよく笑った。安心し、落ちついて抱っこされている。しかし、私に抱かれている時、おじいちゃんのときのようには笑わないことが不思議だった。その後も違和感を抱えたままに子育てを続けて、2歳を迎えようとする頃、悠人は泣かず騒がずの「親にとってお利口さんな扱いやすい子」として育っていた。

当時の私は、迷いながらも佐賀県にある母親コミュニティーにて現在の「心をつなぐ人になるCüくう‐入門‐」の前身である「おやべん」の講座を受講することにした。そこでどんなことをするにも気持ちがあること、そして、どんな気持ちがあってもよいことを知り、対立のないコミュニケーションを学び始める。学びが深まっていくにつれて、自分の気持ちに素直になり、隠されていたものが出てくる感覚を覚えた。

そして自分を感じれば感じるほどに出てきたのは「家が帰ってきてホッとする場所でない」ということだった。

自分で自分にびっくりした。当時、一緒に暮らしていた夫のご両親は悠人のことをお風呂に入れたり、ご飯を一緒に作ったりして積極的に関わっていた。わたしたちともけんかや言い争いもなく、「何一つ問題がない家族環境」だと思っていた。しかし、日々の生活の中で、どうしてもどこかしっくりこない違和感を感じながら生活していたのだ。
今となっては人と人との価値観は違うことが当たり前だと思える。

しかし当時は自分の思いを押し隠し、家族にあわせることで何事もないように見せていた。そして自分がそうしていることに気付かずにいた。だが、そんな自分であることを一度知ってしまえば、隠し続けることはできなくなった。勇気を出して自分の感じている気持ちを家族に話すと、みんなが驚き、反発も生まれた。

すぐには何も解決しなかった。日々自分を感じ、丁寧に伝え続けた。それまで「同じ」と思っていた人間が急に「違う」自分のことを話し始めたのだから不和も生まれる。しかし、それを続けていくことで、お互いが違っていること、互いの「ちょうどいい」はどこにあるのかを探ろうという考えに変わっていった。たくさんの話し合いの末、今では、互いが居心地の良い距離感で生活している。

 

息子との関わり、断薬、療養・・・そして気が付いたこと

こうして自分の気持ちを感じて生きることを始めて気づいたことが2つある。
1つ目は、幼いころの悠人との間にあった違和感の正体だ。あれはまさに、自分が自分の気持ちにふたをして、辛さも悲しみも感じないようにしていたことの結果だったのだ。悠人が生まれる前から、知らず知らずのうちに自分の気持ちを隠して生活していた。それを悠人は、おなかの中で一緒に感じていたのだと思う。はっきりと伝えない私の心を敏感に感じ、わたしと一緒にいることに居心地の悪さを感じていたのだろうと思う。

わたしが気持ちをちゃんと伝えるようになったころから、悠人も「顔色をうかがう」ことをやめた。今では彼も自分の気持ちを隠すことはせず、旦那とよく言い争っているのを見てほほえましく思う。

2つ目は、心と身体が連動しているということだ。気持ちについて勉強するようになって間もなく、小さいころから症状のあったアトピーが悪化し、顔や手のひらなど全身に広がった。薬を投与しながら仕事を続けていたが、かゆみと痛みによって動くことができなくなった。仕事を辞め、薬を強くしたが、一向に治る兆しがなかった。それまでの自分であれば、そのまま病院に通い続け、薬の投与もやめなかったのだろうが、体には自分の気持ちとつながりがあるような気がして、薬で症状を抑えることをやめた。途端、止めていたものがあふれ出す。症状は悪化の一途をたどり、身動きが取れないほどになった。

その様子を見て家族は、「病院に行って診てもらえ。もっと強い薬を使えば前のようにきれいになるかもしれないだろう」と何度も私に訴えかけた。ベッドから起き上がることのできない私の姿を見て家族が心配する気持ちや、もどかしい気持ちはよくわかった。確かに薬を使えば一見よくなったように見えるかもしれない。しかし、薬によって症状を止め、自分の中に何かが残ることになると思ったら、むしろ早くすべてを出してすっきりしたいと思った。何かあると知っているのにそれにふたをするような自分にはもううんざりだったのだ。

家族の反対を押し切って薬を断ち、自宅で療養した。その間、家から出ることはなく、ほとんど人とも会わなかった。結局以前のように動けるようになるまでには、8か月の歳月を要した。その間は、体だけでなく心のケアもした。過去の自分を振り返り、その時々の気持ちをひとつひとつ手にとって、じっくりと感じ、自らを癒しつづけた。不思議なことに気持ちの整理がついていくにつれて、症状も収まっていったのだった。今では普通に生活できるまでに回復した。

 

ある日、自身も症状のあった悠人が話しかけてきた。

「悠人も前はアトピーあったよね。でも今はきれいになってうれしい!」
「そうだね、悠人も昔出たことあったよね。でも、あなたが自分の気持ちを大切にしなくなったらまた出てくるんよ。だからこれはね、自分のことを大事に生きているかどうかのお知らせなんだよ」
自分を感じ、表現することを初めてから、また新たな人生がスタートしたような感覚を覚えている。

「わたしの人生はわたしが生きる」

あたりまえのことのように聞こえるこの言葉を胸に、自らが生を全うする。

 

***あとがき***

今回麻美さんの取材をして感じたことは、とても素直な人柄だということだった。自分の心や体に起こる苦しいことやつらいことに目を背けたり、抑え込んだりすれば、目に見える姿かたちは一見きれいなもののように見えるかもしれない。でも、無かったことにした気持ちは自分のどこかに蓄積されて、それこそ目には見えない形でいろんな歪みを引き起こす。それがわかっていても、そこから抜け出すのは難しい。目の前にあるトラブルをなかったことにすることは自分も相手もだまして、「なんとなくいい感じ」でいることができるからだ。

しかし、麻美さんは、気づいたことをそのままにはせず、気づいた自分に正直にいることを決心していた。そうあることで、「なんとなくいい感じ」ではいられなくなる。自分の思いがはっきりとしてくるから、必然的に対立が生まれる。それが怖くて、面倒くさくて正直にあることを諦めてしまう人も多いのではないだろうか。その一時の対立を乗り越えて、お互いの思いを伝え合い、調和できる距離を探し続けていくその勇気や潔さがかっこよかった。

現在の麻美さんは、看護師という仕事を辞め、「アイツムグ」という会社を立ち上げた。親子それぞれが本当に望む状態を知って、その生を全うできる生き方のサポート、そして、自身が医療現場にいた経験を活かし、悩みを抱えた医療従事者のサポートを行っている。自分の気持ちに正直にあることを実践する彼女の周りから、その輪が力強く波及し、生き生きと過ごす人が増えていく未来を想像すると胸が高鳴った。

 


【プロフィール】

緒方麻美
1981年生まれ 福岡県出身 一児の母
対処療法しかなされない医療現場に違和感を感じ病院を退職。
息子を出産後、クラウドナイン・エデュケーションの「Cü(当時おやべん)」に出会い衝撃を受ける。自身も講師として「気持ちを大切にする関わり」を広める。

 

「アイツムグ」
所在地: 福岡県八女市立花町原島261
連絡先: TEL 0943228606
HP:https://ameblo.jp/aitsumugu/

 


取材・執筆・撮影|

山田博揮
1992年生まれ 静岡市出身
大学卒業後、静岡の小学校に3年間勤務するも、学校文化しか知らない狭い価値観で子どもたちと接する自分にうんざりし、退職。西日本自転車の旅や東南アジアバックパッカーの旅を経験。帰国後、クラウドナイン・エデュケーション(現職場)の代表アッコと出会い、就職。気持ちに触れる関わりを日々実践しながら学び、静岡で講座を開くことを夢見ている。趣味はカメラ、自転車、ブログを書くこと。