「やっと言えましたー!!ゴルフのためにお金を払うことに躊躇や後ろめたさがあったんです。これまで、ゴルフに行くときは非難されているような気持ちでした」清々しい笑顔でそう語るのはご夫婦で『管理財布講座』を受けたある旦那さん。

仕事の付き合いでゴルフに行く機会があるが、自分だけのためにお金を使っているような気がして後ろめたさを感じ、こそこそとカードを切っていたのがずっと胸に引っかかっていたのだという。講座のなかで月にいくらくらいのお金が必要なのかを奥さんと話すことができ、とてもすっきりした表情を浮かべていた。奥さんの方は「そんなこと早く言ってくれたらよかったのに」とさらっとした反応で、そこにもとても驚いていた。なんだか非難されているように感じていたのは自身の思い込みだったのだ。

 世の中の夫婦の風通しをよくしたい

今回取材した江崎智代さんは、夫婦のコミュニケーションが豊かになることを願い、夫婦一緒に家計  を管理する方法を伝える『管理財布講座』を開講している。昨今、共働きの家庭が増え、各々が家計管理をする“夫婦別財布”の夫婦が多くなっているという。すると、先ほどの夫婦のように、なんとなくやましさを抱えながら買い物をしたり、お金の使い方について小さな愚痴を投げつけあったりするようになるのだ。

彼女は、そんな曖昧なお金の使い方や互いの価値観の違いをはっきりとさせる。そして「そんなに使って大丈夫なのか?」「あなたばっかり」という会話を「今月はこんなに使ったね。だからこうしよう」に変える手伝いをしている。 彼女がそんな講座を始めるに至ったきっかけは自身が元旦那さんとの間に風通しのよい関係をつむぐことができなかったという過去にある。

 少しずつ離れていった夫婦の距離

やる気もサービス精神も旺盛で、きびきびと仕事をこなし、責任ある仕事も任されていた元旦那は、家でも息子の面倒をよく見ていた。毎日お風呂に入れていたことから、その日もお願いしようと彼の帰りを待っていた。連絡もなく普段よりも遅くなった彼に多少のイラつきを感じながらも、息子の入浴をお願いすると

「俺はお風呂に入れるとは言ってない。勝手に俺をあてにするな」

という重く、冷たい言葉が返ってきた。その瞬間にまるで氷の壁のような隔たりが彼との間に生まれた感じがした。その日を境に彼は私たちが寝静まってから帰宅するようになり、夫婦の会話はなくなっていった。

 

息子を産んでからは主婦をしていたが、旦那の一馬力では大変だろうと復職した。しかし、待っていたかのように間もなくして彼が休職し、驚いた。もともと鬱の傾向があったが症状が深刻化した彼を見て、息子と二人分の面倒を見ることはできないと感じ、彼の実家で同居することにした。
しかし、その家族ともあまりうまくはいかなかった。こちらから一生懸命に寄り添い、話しかけていったつもりだったが話を真剣にとりもってもらえている感じがせず、いつまでもよそ者、お客さんのような感じが抜けなかった。誰にも理解されている感覚がなく、人と一緒にいるのに孤独でさみしさや息苦しさを感じていた。

 

ある日、旦那に息子をどこの幼稚園にするかの相談をした。

「みんながいいっていうとこでいいんじゃない?」

その言葉を聞いて、緊張の糸が切れてしまった感じがした。どれだけ私や息子に対して関心がないのだろう。一人で一生懸命になっていた自分がバカらしくなった。それを機に「わかった。じゃあ私の実家の近くの幼稚園にするね」そう言って別居生活が始まった。これもまた新しい夫婦の形かと自分を納得させ、心機一転関係をつむぎ直そうと考えていた。しかし、彼の実家の人たちはそれをよくは思わなかった。私には直接言ってくることはなかったが、旦那が連日いつ連れ戻すんだと言われ続けていたらしい。そのことに嫌気がさした旦那から出てきた言葉は

「俺はきついから離婚した方がよっぽど楽なんだ」

これまでとは違った距離感でまた新しくやり直そうと意気込んでいたさなか、言い渡された引導に返す言葉が見つからず、あなたがそういうのならと届けにサインをした。

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この話をしている時、いつもの元気で快活な彼女からは想像できないやるせなさを感じた。復職や同居など何度も形を変えてやり直しを試みるも思いが届かない切なさは計り知れない。「紙切れ一枚でもつながっていたらまたやり直せたかもしれないのに」息子と二人でいて幸せではあるけれど、何か心に隙間はあるのだという。多くのことを学んだ今、当時とは違った言葉で相手に伝えることができるかもしれないという期待を本人から感られる。だからこそ、旦那さんとの間でのやり直しはもう叶わないという現実が本当にもどかしかった。

 やり直しのきかない自身の経験が「管理財布講座」に

そして離婚後には二ヶ月で養育費が払われなくなった。話を聴くと多額の借金があったのだと聞いて驚いた。確かに「俺の通帳は見ない方がいいよ」という言葉を飲んでお金のことをグレーにしたままにしてはいた。今になって振り返れば、通帳はまさに“隠し事”であり、日々の生活の中でじわじわと心をむしばんでいたのだった。あの時強引にでも通帳を突き合わせて改善していこうとしていたなら結末が変わっていたかもしれない。そう考えると、やり直しの効かない今が本当にもどかしく、悔やみきれない。

その思いは今『管理財布講座』という形になっている。

 

“旦那の浪費癖がひどい”“会話にならない”“自分一人で稼いでいける”そう言って簡単に離婚を口にする人に対してもう一度やり直すことができないかと講座を通して投げかけている。本当にやり直す瞬間はいたるところに転がっている。うやむやにしていたことをはっきりさせることは確かに痛みを伴うこともあるが、それを乗り越えた先に初めて足並みがそろう。それは決してお金だけではなく、互いの価値観を知り合い認め合う過程が含まれ、まさに夫婦の新しい門出となるだろう。「こうしてみよう、ああしてみよう」と同じ目標に向かって夫婦で協力し、工夫し、喜びある未来が見えてくる。

彼女の過去からくる、どんなところからでもやり直し、夫婦で豊かな人生を歩んでほしいという強い願いと、はきはきと明るい人柄はまさにこの仕事をするためにあるのではないかとすら感じる。

そんな話をしていて最後に彼女から出てきた言葉は「ほんと全部つながってるよね~!」だった。どんなつらく苦しい過去も未来への希望にしてしまう底抜けのあかるさと清々しさに思わず笑ってしまった。


【プロフィール】

江崎智代
1973年生まれ 福岡県出身 一児の母
コンピュータを扱う仕事に憧れ、九州工業大学情報工学部機械システム工学科を卒業。
情報システムの会社やTV局向けのシステムをつくる会社に就職するが、言われたことをこなしていく会社の雰囲気や価値観に疑問がわき、出産を機に退職する。
現在は以前取得していたファイナンシャルプランナーの資格を活かし、保険の営業を続ける傍ら、コンサルティング会社「IRODORI」にて家庭や職場の風通しをよくする講座やセミナーを開催している。

「IRODORI」
所在地: 福岡県福岡市早良区西新7丁目2-46-601
連絡先: TEL 090‐7953‐3890
HP:https://www.irodori-fukuoka.co.jp/


取材・執筆・撮影|

山田博揮
1992年生まれ 静岡市出身
大学卒業後、静岡の小学校に3年間勤務するも、学校文化しか知らない狭い価値観で子どもたちと接する自分にうんざりし、退職。西日本自転車の旅や東南アジアバックパッカーの旅を経験。帰国後、クラウドナイン・エデュケーション(現職場)の代表アッコと出会い、就職。気持ちに触れる関わりを日々実践しながら学び、静岡で講座を開くことを夢見ている。趣味はカメラ、自転車、ブログを書くこと。